最期の伝言



あなた…あなたよ。

あなたはいつか本当に
あなたの全てを私に与えてくれるか。
あなたがいつかくれたことばのように
あなたの思い信ずること全てを私に伝えたいと
…そう望むと
その想いは今もあなたの中に在るか。

ならばあなたよ
あなたの生命(いのち)を象(かたど)るもの全てを
容赦なく私には伝えてくれ。

いずれは忘れなければならず
私が自らの意志で捨てねばならぬ
そんな記憶ならばいっそのこと
はじめからくれずにおいてくれと
死んだような静けさで眠るあなたを前に
恨むほどの思いで嗚咽を殺していた幾つかの夜
その胸のきしみを忘れてはいない
声にならぬことばを忘れられはしない。

けれども今ひとつの関を過ぎ 私は敢えて願う
あなたという人間(ひと)がたしかに存在したことを
いっそ傷が残るほどに強く
癒えぬ痛みとなるほどに熱く
私の中に刻んでいってくれ

いつのまにかさりげなく
形見を残そうとしはじめているあなたよ
ともすればその身が危うい所へさえ
あなたは行くというのなら
──かまわぬ
死の深淵(ふち)からでも私を呼んでくれ

私はあなたのこころを受けに その際(きわ)までも降りてゆく
ボロブドゥールを昇るようにあなたへの道を辿る

あなた…あなたよ
迷うことなく私には伝えてくれ
どんなにしても
どんなにしてもいつか
あなたの生命を象るもの全て──


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