“海の歌”より 船出



“full-sail”──出帆のとき
若者の瞳には
大海原と自由への飽くなき憧れ
きらめく波端(なみは)
ゆるやかな弧を描いて水平線がひとすじ

大空を突く四本の帆柱(マスト)はどこまでも高く
白い帆は風をはらみ
帆船(ふね)を大海原へ誘(いざな)う 強く 強く
頬をなぶる潮風
海の香りにむせながら
若者はタラップに足をかける
見上げられないほどにまぶしい陽差しを
その片腕(かたかいな)でさえぎりながら
若者はタラップをのぼってゆく
思いはすでに海へ──

金波銀波の波の華
帆船は静かに滑り出す
港に群れる海鳥の声が青い空に浸みる

“full-sail”胸躍る響き 出帆のとき
ふりあおいだ空の高さよ 帆の白さよ
若者たちをのせて 帆船が今出てゆく
ひとつの別れを越えて 帆船は今
大海原へ 溶けこんでゆく



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full-sail:帆船が帆をいっぱいにあげた状態。


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