出会う以前のあなたさえ



あなたのこころが見えない
あなたの 私の背を抱く両腕の温もりも
胸よりひびく真近(まぢか)な声も
何の救いになるわけもない
──私はあなたを抱きしめながら
気の遠くなるほどのせつなさだけを知る──

あなたにとって私は誰
…あなたにとって私は誰
くりかえす数だけさらに
私はあなたへの距離を思う
あなたはこんなに近くにいるのに
あなたのこころが私には見えない

ただ耳に伝わるあなたの鼓動
ことばにならないあなたの中の
それは不安なこころの震えだったかもしれない
こらえきれないように流れきては
私のこころにしみとおり
形にならないあなたの中の
それは短き人生(いのち)のかなしみだったかもしれない

出会う以前のあなたさえ
出会う前から愛していたと
ことばにすればそれはただ
空々しいひびきでしかない
さぐる背中のはかなさに
ただ想いは深まってさらに強くあなたを抱(いだ)き
あなたは何も答えず
私は何も聞かないまま
月の煌々たる夜空の下(もと)に
あなたと私の影がただ落ちている


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